呼びに来てすぐもどる子よ夕蛙
囀りの左移りや右移り
春泥に行きくれてゐて暖かし
沈丁をくぐりて落つる霰かな
一本の遅日の燐寸燃ゆるひま
春月の坂ゆるやかにしたがへる
外にも出よ触るるばかりに春の月
故里の花一日の日焼かな
山櫻かざせし馬車をまた抜きし
たんぽぽや忽ち蜂の影よぎり
たんぽぽの花には花の風生れ
鵙の巣の椿は上に上に咲く
山の名はただ向山や麦青む
野を焼きて離れ離れの家にあり
その中の野火の一つのはげしさよ
傘させば春潮傘の内にあり
三椏の花の白さの幾朝か
ぜんまいのほどけし肩の落花かな
藤揺れて朝な夕なの切通し
紅梅の初花すでに軒をはなれ
紅梅や春ふたたびの目に約し
雨降れば雨も行くべし草萌ゆる
高々と馬車駆り去りし焼野かな
地蟲出てその一角を行き交へり