沈丁やうからといへど母ひとり
マッチ摺ればマッチもよき香蝶の昼
山こむる霧の底ひの猫の恋
梅早しポンプ一突き水溢れ
大根の花母がりへ遠く着く
手渡しに子の手こぼるる雛あられ
一日の欅の芽吹きしやぼん玉
しやぼん玉吹くや一つの窓領し
草芳しもつともあそぶ咳する子
初櫻長き夕日にあづかりし
春潮のまぶしさ飽かずまぶしめる
夕心落花のつむじわれ人に
花散るや小金魚どつと市に出で
春水の一筋ならず馳せて来る
もの縫へば何やら安し草萌ゆる
その人もつき添ふ人も花冷に
夕蛙心して過ぐ人の門
菜の花や雲はしづかに死火山に
肥後椿深井ゆたかに汲みこぼし
黄塵やわれはわづかな傷かばひ
白椿ひそやかなるは人語かな
町とてもひとりゆく道雁帰る
母娘だけの話も少し春炬燵
夕日愛づ紅梅を愛づ声あげて