和歌と俳句

中村汀女

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芳草を舟かぎりなく遡る

構内の一角夜業おそ櫻

下萌や母にばかりにものいはせ

山吹に友はやさしく涙ぐみ

白椿昨日の旅の遙かなる

春雪の夜に熱の子まかせおき

山裾の日に紅梅の盛り過ぎ

事務終へてしばし遅日の卓に読む

紋付の紋しみじみとの下

大いなる汽関車濡るる花の雨

卒業や丘は斜に櫟立ち

春泥や高爐はすでにそばだてる

ほぐれんとして傾ける物芽かな

紅梅に一輪二輪風邪つづく

春暁の眠れる子等を二階にし

満開の花の沈める夜にふるる

子のために暮春の汽車の旅少し

春潮の心こまかに岩に触り

延着といへ春暁の関門に

窓を開け幾夜故郷の春の月

藁塚の三つが身を寄せ春の霜

一粒の種の仔細をいぶかしみ

行き過ぎて尚連翹の花明り