和歌と俳句

野焼

西行
春霞いづち立ち出て行きにけむきぎす棲む野を燒きてけるかな

西行
すそ野やく烟ぞ春は吉野山花をへだつるかすみなりける

野とともに焼る地蔵のしきみかな 蕪村

曙覧
春野やくしわざおぼえて艸燃すけぶりの靡きおもしろき哉

子規
大原の野を焼く男野を焼くと雉な焼きそ野を焼く男

野辺焼くも見えて淋しや城の跡 子規

野を焼くや道標焦る官有地 漱石

野を焼くや風曇りする榛名山 鬼城

野を焼くやぽつんぽつんと雨到る 鬼城

鎌倉のここ焦したる野焼かな 虚子

古き世の火色ぞ動く野焼きかな 蛇笏

野を焼いて帰れば燈下母やさし 虚子

涸れ沼の芦けぶり居る野焼きかな 亞浪

枯笹にたけりうつりの畦火かな 風生

野を焼くや焔の中にある太古 喜舟

曇天へ煙直ぐなる野焼かな 橙黄子

野焼火のおしのぼりゆく堤かな 爽雨

佇める人にひろごる野焼かな 爽雨

野を焼くや棚曇して二三日 花蓑

水辺草ほのぼのもゆる野焼かな 蛇笏

夕野火や降り出し雨のしめやかに 麦南

しらぬひの筑紫小島の野火けむり 麦南

此の村を出でばやと思ふ畦を焼く 虚子

久米の子ら更衣の野を焼ける見ゆ 夜半

土手長し萱の走り火ひもすがら 久女

畦焼に多摩の横山暮去んぬ 秋櫻子

多摩川や堤焼きゐるわたし守 秋櫻子

堰の音遠からずして畦火かな 秋櫻子

庭さきの焼かれし芝を踏みて訪ふ 素十

火の山の阿蘇のあら野に火かけたる 多佳子

天ちかきこの大野火をひとが守る 多佳子

芝を焼く美しき火の燐寸かな 汀女

秩父嶺に雲ゐてさらず野火はなつ 麦南

野火煙る繊月馬柵にあふがれぬ 麦南

芝の火のおもひとどまるところかな 汀女

草の骨野焼のあとに焦げながら 占魚

野を焼く火嫁ぐ子その父も見たりけむ 楸邨

雷の丘も過ぎゆく野焼火も 楸邨

野を焼きて離れ離れの家にあり 汀女

その中の野火の一つのはげしさよ 汀女

野火走る消すことのみにかかはれる 汀女

野を焼く火身の内側を焼き初む 三鬼

人を焼く鋭き火のいろに野を焼ける 鷹女

野を焼けば焔一枚立ちすすむ 青邨

野火走る消すことのみにかかはれる 汀女

駿河平拓き残れる野を焼けり 風生

野を焼いて補遺の堤へ火を移す 不死男