和歌と俳句

中村汀女

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春雨の止む明るさに蜘蛛の糸

相ともに座り残せしげんげ摘む

野の祖母は遅日の孫を後へにし

猫の子の泣いて見上げてなぐさまず

猫の子のすぐ食べやめて泣くことに

雲浮び何か明るし春の風邪

目はなせば櫟に また隠る

だんだんに己れかがやき金鳳華

もろともに一時に咳や花見連れ

わが胸をよぎり音せし落花かな

たんぽぽの絮息づいて尚高く

傘させば銀座春の雨強し

君少し歩けば春の泥少し

子を守りて母うつつなき飛燕かな

部屋のことすべて鏡にシクラメン

われもまた人にすなほに東風の街

水鳥の今日ひろひたる雛あられ

餌を終へし鴨すげなさや水温む

征く人の御父尊と東風の駅

みいくさに東風に靴紐新しく

廣庭のただもの遙か陽炎へる

美しき春日こぼるる手をかざし

おのづから花圃にある日や帰る雁

春暁や水ほとばしり瓦斯燃ゆる