春雨の止む明るさに蜘蛛の糸
相ともに座り残せしげんげ摘む
野の祖母は遅日の孫を後へにし
猫の子の泣いて見上げてなぐさまず
猫の子のすぐ食べやめて泣くことに
雲浮び何か明るし春の風邪
目はなせば櫟に 菫また隠る
だんだんに己れかがやき金鳳華
もろともに一時に咳や花見連れ
わが胸をよぎり音せし落花かな
たんぽぽの絮息づいて尚高く
君少し歩けば春の泥少し
子を守りて母うつつなき飛燕かな
部屋のことすべて鏡にシクラメン
われもまた人にすなほに東風の街
水鳥の今日ひろひたる雛あられ
餌を終へし鴨すげなさや水温む
征く人の御父尊と東風の駅
みいくさに東風に靴紐新しく
廣庭のただもの遙か陽炎へる
美しき春日こぼるる手をかざし
おのづから花圃にある日や帰る雁
春暁や水ほとばしり瓦斯燃ゆる