畦焼に多摩の横山暮れ去んぬ
多摩川や堤焼きゐるわたし守
鳴きのぼる雲雀の影や蛇籠あみ
蛇籠あみ紫雲英に竹をうちかへし
陽炎や砂より萌ゆる月見草
鶯や前山いよよ雨の中
谷深くうぐひす鳴けり夕霞
杣が春谷杉藤を垂れたりや
機織や燕きたるといひそめし
雨ごもり燕巣に鳴く機屋かな
桑の芽や雪嶺のぞく峡の奥
草の門ひらかれあるは西行忌
初午やまことしやかに供餉の魚
連翹のうつる家より渡舟かな
額の芽の球の如きがほぐれそむ
遠つ世の面輪かしこし木彫雛
はしきよし妹背並びぬ木彫雛
衣手の松の色はえ木彫雛
天平のをとめぞ立てる雛かな
かぎろへる埴輪雛と申すあり
遠き世の長押の鎗や雛祭
雛壇や襖はらひてはるかより
雛の燭かたみて揺れてしづもりぬ
まなびやの春惜しまるる花壇かな
堰の音遠からずして畦火かな