和歌と俳句

橘曙覧

1 2 3 4 5

春もまだむ月の中のうぐひすは面えりしつゝ鳴にや有らむ

そことなく青む六田の柳原めにたつばかり春もなりにき

隙あらく見し枝々も花と花からまりあひて咲ぞうめける

みさかなはなにはあらめとこゆるぎの急ぎ掘きて煮たるたかんな

鹿の音のしをれがちにぞ聞れける在明の月や雨に成けむ

麓寺かはらのいろもかつ消て夕ぎりがくれひゞく鐘の音

朝かぜにゆられて落るさゝ栗に小笠うたるゝ秋のみ山路

賤が家這入せばめて物うゝる畑のめぐりのほほづきの色

とほつ人思ふ心を手力のかぎりにこめてうつやさごろも

春野やくしわざおぼえて艸燃すけぶりの靡きおもしろき哉

口あそびいひあふ賤の門すゞみ暑さわすれのすさびとはなし

墨ぞめの夕の雲にまとはれて白さあらはす嶺のうすゆき

庭中に来たつ狐のもの音を枯生の霜に聞く夜さむしも

秋雨一ふりかへて庭のさま見する紅葉の今朝の色かな

おそかるも此一月をせきにしてひとり桜の時になしつる

たゝまりて蘂まだ見せぬ葩のぬれ色きよし蓮のあさ露

ほとゝぎす一鳴なきてくゞりつる枝見るたびになつかしの陰

さえわたる星よりしげき槌数にきぬうつ里の多さをぞ知る

あけはつる空にとぢめし夜あらしの行へしづけき杉むらのゆき

羽ならす蜂あたゝかに見なさるゝ窓をうづめて咲くさうびかな

くれなゐの唇いとゞなまめきて雨にしめれる花のかほよさ

ひたりくる月のかげさへとゝのひて波間すゞしき蜑の呼びごゑ

痩て咲く垣の朝貌見るにつけ秋くれかゝる伏屋をぞ思ふ

枯のこる茎うす赤き犬蓼の腹ばふ庭にふりにける

聞く夜あり聞ざる夜あり秋のむし鳴やむころになりやしぬらむ