稀にきてすがる小鳥のちからにもひしがれぬべく見ゆる若竹
ますらをと成るらむちごの生さきは握りつめたる手にもしるかり
蟋蟀の声もまじりて此夜ごろ秋づきかけぬ浅茅生の月
あはれなり角ある鹿もたらちねの柞のかげを去うげに鳴
黄金色とぼしき屋所といふ人に見せばや秋の山ぶきの花
白雲の行かひのみを見おくりて今日もさしけり蓬生の門
今朝見れば簀子つゞきになりにけり夜一夜ちりし庭のもみぢ葉
薄じろくなりてたまれる雪の上も汚さで一日見る庵かな
跡といふものはあらせぬ雪のうへに心をつけて独見るかな
母なしは我のみなりと巣だちする鶯見てもうらやまるらむ
帰路を牛にまかせて我はたゞ笛吹きふける里のあげまき
み谷川水音くらき岩かげに昼もひかりて飛ぶほたるかな
女郎花萩より上に立のぶる薄けだかくうち見られける
はなれうき朝床いでゝ少女子が黒髪山の雪を見るかな
音きけばあないたやとぞうめかるゝ身を打ちたゝくあられならねど
里人の群りつどふ神やしろうちひゞかする皷いさまし
目をうばふさかりは二十日ばかりなり国傾けの花の色香も
思はずもあふぎたゝみて見いれけり一ゆすりする風のむら竹
すくすくと生たつ麦に腹すりて燕飛くる春の山はた
今朝も来て枯木の小枝くゞるかな雪にあさりをうしなへる鳥
我とわが心ひとつに語りあひて柴たきふすべくらす松の戸
御涙の外なかりけむ誰ひとり都へいざといはぬあけくれ
鐘の声瓦の色も御涙もつくしの空のうさをそへつゝ
人は皆見さして寐たる小夜中の月を静に入るゝ窓かな
雪ふりて拾ふ落葉の乏しさに朝げの煙たてぞおくるゝ