うばら垣刺もつ枝もやはらかになびけて雪のふりかゝりつゝ
春たつとつげの小櫛もとらせずよほのぐらきより鶯のきて
唇のさむきのみかは秋のかぜ聞けば骨にも徹る一こと
小牡鹿の蹄にかゝる今朝の霜あはれ鳴音も消むとすらむ
風まじり雨ふる寺の犬ふせぎしぶきのぬれにうつるみあかし
朝出て夕に還るそれならで芳野の山をうづむしら雲
言ひよれどいなともうともいはぬ色に水もながるゝ堰出の玉河
露をおもみ風をまつらむすがたにぞみながらなりし宮城野の原
ゆひそへし竹もゆがみて初霜のおきうげにする一もとの秋
色匂ひ品をあらそふ春秋に我あづからぬ花の仙人
ふたりとはまだ人も見ず雪しづれ朝日におつる杉のした道
夕浪のよりつかへりつ磯松のこずゑさわたる村ちどりかな
よればよりかへればかへり夕波のさわぎにつるゝ川千鳥かな
鞍橋に手をうちかけて駒の足明石ならねば須磨にむけさす
すゝけたる仏のかほもはなやかにうち見られけりうぐひすの声
明日よりは夏の暑さもあらひこしなごみわたれり瀬々の川かぜ
うつくしくふれるはつ雪ことの葉の跡つけつくるやすらはれける
打なびく柳のけぶりはづれても猶うちくもるはるの夜のつき
屋所のはなさけば苔路をかき掃てこてふににたり春の稀人
うぐひすも鳴つかれたる声させつ淀川づゝみながながし日は
雨の音聞く聞く寐たる手まくらの夢のうちにや帰り来にけむ