和歌と俳句

砧 きぬた

針立や肩に槌うつから衣 芭蕉

碪打て我にきかせよや坊が妻 芭蕉

声すみて北斗にひびく砧哉 芭蕉

猿引は猿の小袖をきぬた哉 芭蕉

思ひ余り恋ふる名を打碪かな 鬼貫

燈をほそめ寐つけばひびく砧哉 杉風

寐入かね虫歯に響くきぬたかな 涼菟

音添ふて雨にしづまる碪かな 千代女

うき人に手をうたれたる砧かな 蕪村

迷ひ子を呼ばうちやむきぬた哉 蕪村

遠近をちこちとうつきぬた哉 蕪村

貴人の岡に立聞きぬたかな 蕪村

露深き広野に千々の砧かな 蕪村

なつかしきしのぶの里のきぬた哉 蕪村

石を打狐守夜のきぬた哉 蕪村

小路行ばちかく聞ゆるきぬた哉 蕪村

泊居てきぬた打也尼の友 太祇

剃て住法師が母のきぬた哉 太祇

打やまぬ碪たのもし夜の旅 太祇

柿の渋ぬける夜冴や遠碪 暁台

砧打てつれなき人を責るかな 暁台

小ともしの油あやまつきぬた哉 召波

ともし火に風打付るきぬた哉 青蘿

人や住桃のはやしの小夜ぎぬた 白雄

熟柿の落てとばしる砧かな 几董

比叡に通ふ梺の家のきぬた哉 几董

仁和寺や門の前なる遠碪 几董

夫をば寐せて夫のきぬた哉 一茶

小夜砧妹が茶の子の大きさよ 一茶

子宝の多い在所や夕ぎぬた 一茶

曙覧
とほつ人思ふ心を手力のかぎりにこめてうつやさごろも

曙覧
さえわたる星よりしげき槌数にきぬうつ里の多さをぞ知る