和歌と俳句

與謝蕪村

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

十六夜やくじら来そめし熊野浦

秋の暮辻の地蔵に油さす

秋の燈やゆかしき奈良の道具市

鱸釣て後めたさよ浪の月

わたり鳥ここをせにせん寺林

渡り鳥雲の機手のにしきかな

露深き広野に千々のかな

桐の葉は落つくすなる木芙蓉

鵯のうたゝ来啼やむめもどき

道のべや手よりこぼれて蕎麦花

夜の香にかくれたや花白し

さればこそ賢者は富ず敗荷

うれしさの箕にあまりたるむかご

天狗風のこらず蔦の葉裏哉

升呑の価はとらぬ新酒かな

賀茂河のかじかしらずや都人

物書に葉うらにめづる芭蕉

身にしむや横川のきぬをすます時

身にしむや亡妻の櫛を閨に踏

日は斜関屋の鎗にとんぼかな

修行者の径にめづる桔梗かな

きちかうも見ゆる花屋が持仏堂

啼や河内通ひの小でうちん

摂待や菩提樹陰の片庇

待宵や女主に女客