和歌と俳句

與謝蕪村

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秋立や素湯香しき施薬院

恋さまざま願の糸も白きより

立て秋天ひききながめ哉

魂祭王孫いまだ帰り来ず

つと入や納戸の暖簾ゆかしさよ

つと入やしる人に逢ふ拍子ぬけ

相阿弥の宵寝起すや大文字

銀閣に浪花の人や大文字

地蔵会やちか道を行祭客

錦木の門をめぐりてかな

八朔もとかく過ぎ行くおどり

松明消て海少し見ゆる花野かな

市人の物うちかたるの中

追風に薄刈とる翁かな

草の戸の心にそまぬ糸瓜かな

花火せよ淀の御茶屋の夕月夜

花火見えて湊がましき家百戸

三径の十歩に尽きて蓼の花

瀬田降て志賀の夕日や江鮭

猿三声我も又月に泣夜かな

獺の月になく音や崩れ簗

霧晴て高砂の町まのあたり

花守は野守に劣るけふの月

名月や神泉苑の魚躍る

月の宴秋津が声の高きかな

月見ればなみだに砕く千々の玉