錦する野にことこととかゞしかな
畠主かゞしに逢ふてもどりけり
身の闇の頭巾も通る月見かな
梨の園に人たたずめり宵の月
月天心貧しき町を通りけり
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉
門前の老婆子薪貪る野分かな
船頭の棹とられたる野分哉
鴻の巣の網代にかかる野分哉
野分して鼠のわたるにわたずみ
うき人に手をうたれたる砧かな
迷ひ子を呼ばうちやむきぬた哉
遠近をおちこちと打つきぬた哉
甲賀衆のしのびの賭や夜半の秋
枕上秋の夜を守る刀かな
秋の夜の燈を呼ぶ越の筧かな
日でりどし伏水の小菊もらひけり
秋雨や水底の草を踏わたる
足もとの秋の朧や萩の花
栗飯や根来法師の五器折敷
かじか煮る宿に泊りつ後の月
唐人よ此花過てのちの月
去来去移竹移りぬゆく秋ぞ
うら枯や家をめぐりて醍醐道
父母のことのみおもふ秋のくれ
戸をたゝく狸と秋をおしみけり