和歌と俳句

山本荷兮

先明て野の末ひくき霞哉

万歳のやどを隣に明にけり

さればこそ桜なくても花の春

歯朶添て松あらたむる宮居哉

蝶鳥を待るけしきやもの ゝ枝

暁の釣瓶にあがるつばきかな

いそがしき野鍛冶をしらぬ

蝙蝠に乱るる月の柳哉

ねぶたしと馬には乗らぬ菫草

山まゆに花咲かぬるつつじ

髭に焼香もあるべしころもがへ

簾して涼しや宿のはいりぐち

はき庭の砂あつからぬ曇哉

あさがほの白きは露も見へぬ也

もえきれて紙燭をなぐるすすき

見しり逢ふ人のやどりの時雨

こがらしに二日の月のふきちるか

としのくれ杼の実一つころころと

いはけなやとそなめ初る人次第

としごとに鳥居の藤のつぼみ哉

沓音もしづかにかざすかな