先明て野の末ひくき霞哉
万歳のやどを隣に明にけり
さればこそ桜なくても花の春
歯朶添て松あらたむる宮居哉
蝶鳥を待るけしきやもの ゝ枝
暁の釣瓶にあがるつばきかな
いそがしき野鍛冶をしらぬ 柳哉
蝙蝠に乱るる月の柳哉
ねぶたしと馬には乗らぬ菫草
山まゆに花咲かぬるつつじ哉
髭に焼香もあるべしころもがへ
簾して涼しや宿のはいりぐち
はき庭の砂あつからぬ曇哉
あさがほの白きは露も見へぬ也
もえきれて紙燭をなぐるすすき哉
見しり逢ふ人のやどりの時雨哉
こがらしに二日の月のふきちるか
としのくれ杼の実一つころころと
いはけなやとそなめ初る人次第
としごとに鳥居の藤のつぼみ哉
沓音もしづかにかざす櫻かな