和歌と俳句

向井去来

初春や家に譲りの太刀はかん

商人の空音ゆたかやいせの春

元日は土つかうたる顔もせず

月雪のためにもしたし門の松

蓬莱にかけてかざるや老の袖

正月を出して見せうか鏡餅

万歳や左右にひらいて松の陰

老の身に青みくはゆる若菜かな

うごくとも見えで畑うつ麓かな

いくすべり骨おる岸のかはづ

あそぶともゆくともしらぬ かな

笋の時よりしるし弓の竹

涼しさ白雨ながら入日影

秋風やしらきの弓に弦はらん

の水まさりけり五月雨

榾の火に親子足さす佗ね哉

いそがしや沖の時雨の真帆片帆

尾頭のこゝろもとなき海鼠

あら礒やはしり馴たる友鵆

ひつかけて行や雪吹のてしまござ

うす壁の一重は何かとしの宿

くれて行年のまうけや伊勢くまの

心なき代官殿やほとゝぎす

たけの子や畠隣に悪太郎