和歌と俳句

五月雨 さみだれ

友則
五月雨にもの思ひをれば時鳥夜深く鳴きていづち行くらむ

貫之
五月雨のそらもとどろに郭公なにをうしとか夜ただなくらむ

後拾遺集 相模
五月雨はみづのみまきのまこも草かりほすひまもあらじとぞおもふ

後拾遺集 藤原範永
さみだれはみえしをざさの原もなし浅香の沼の心地のみして

後拾遺集 橘俊綱
つれづれと音たえせぬは五月雨の軒のあやめの雫なりけり

後拾遺集 叡覺法師
五月雨のをやむけしきの見えぬかなにはたづみのみ數まさりつつ

金葉集 藤原定通
五月雨はひかずへにけり東屋の萱が軒端の下朽つるまで

金葉集 経信
五月雨に玉江の水やまさるらむ蘆の下葉の隠れゆくかな

金葉集 藤原顕仲朝臣
五月雨に水まさるらし澤田川まきの継橋うきぬばかりに

金葉集 三宮顕仁親王
五月雨に入江の橋のうきぬればおろす筏の心地こそすれ

公実
旅人の ま菅の笠や 朽ちぬらむ 黒髪山の 五月雨のころ

俊成五月雨に思はぬ浦に舟とめて波のうきねに袖ぬらしつる

俊成
五月雨はまやの軒端の雨灑ぎ餘りなるまでぬるる袖かな

俊成
さみだれはたく藻の煙うちしめり潮たれまさる須磨の浦人

俊成
さみだれにきそのみ坂を越えわびてかけぢに柴の庵をぞさす

俊成
さみだれは蘆の八重葺きふきそへて空のけしきも隙なかりけり

俊成
降りそめて幾日になりぬ鈴鹿河やそせもしらぬさみだれの空

俊成
いかなれや雲間も見えぬさみだれに晒しそふらむ布引の瀧

西行
水無瀬河をちのかよひぢ水みちて船わたりする五月雨の頃

西行
ひろせ河わたりの沖のみをつくしみかさそふらし五月雨のころ

西行
はやせ川綱手のきしを沖に見てのぼりわづらふさみだれの頃

西行
水わくる難波ほり江のなかりせばいかにかせまし五月雨のころ

西行
さみだれに佐野の舟橋うきぬればのりてぞ人はさしわたるらむ

定家
五月雨にけふもくれぬる明日香川いとど淵瀬やかはりはつらん

定家
五月雨は天の川原もかはるらむ八重立つくものなみの深さに

定家
山里の軒端のこずゑ雲こえてあまりなとぢそ五月雨の空

定家
玉鉾の道ゆき人のことづても絶えて程ふる五月雨のそら

定家
苫びさし煙は絶えてほどすぎぬ雲となみとのさみだれのそら

定家
雲せきてみかさこえ行く五月雨にながめは絶えぬ人も通はず

俊成
五月雨はみなかみまさる泉川かさぎの山も雲隠れつつ

俊成
有馬山くもまもみえね五月雨にいでゆのすゑも水まさりけり

俊成
五月雨は長等の山も雲とぢて志賀の浦舟とま朽ちぬらむ