ほととぎす思ひも分かぬ一聲を聞きつといかが人に語らん
ほととぎすいかばかりなる契にて心つくさで人の聞くらん
語らひしその夜の聲はほととぎすいかなる世にも忘れんものか
ほととぎす花橘はにほうとも身を卯の花の垣根忘れな
ほととぎすしのぶ卯月も過ぎにしを猶聲惜しむ五月雨の空
五月雨の晴間もみえぬ雲路より山時鳥なきて過ぐなり
郭公ききにとてしもこもらねど初瀬の山はたよりありけり
ほととぎすなごりあらせて帰りしが聞き捨つるにもなりにけるかな
空晴れて沼の水嵩を落さずはあやめも葺かぬ五月なるべし
折に逢ひて人にわが身や引かれまし筑摩の沼のあやめなりせば
西にのみ心ぞかかるあやめ草この世はかりの宿と思へば
みな人の心のうきはあやめ草西に思ひの引かぬなりけり
水湛ふ岩間の真菰刈りかねて空手に過ぐるさみだれの頃
さみだれに水まさるらし打橋や蜘蛛手に懸かる波の白糸
五月雨は岩堰く沼の水深み分けし石間の通ひどもなし
小笹敷くふるさと小野の通のあとをまた沢になすさみだれのころ
つくづくと軒のしづくをながめつつ日をのみ暮らすさみだれのころ
東屋の小萱が軒の糸水に玉貫きかくるさみだれのころ
五月雨に小田の早苗やいかならむあぜのうき土あらひこされて
さみだれの頃にしなれば荒小田に人もまかせぬ水たたひけり