年暮れぬ 春来べしとは 思ひ寝に まさしく見えて かなふ初夢
山の端の 霞むけしきに しるきかな 今朝よりやさは 春の曙
春立つと 思ひもあへぬ 朝出でに いつしか霞む 音羽山かな
たちかはる 春を知れとも 見せ顔に 年をへだつる 霞なりけり
門ごとに 立つる小松に 飾られて 宿てふ宿に 春は来にけり
子の日して 立てたる松に 植ゑそへん 千代重ぬべき 年のしるしに
山里は 霞みわたれる けしきにて 空にや春の 立つを知るらむ
いつしかと 春来にけりと 津の国の 難波の浦を 霞こめたり
わきて今日 逢坂山の 霞めるは たち遅れたる 春や越ゆらん
春知れと 谷の細水 もりぞくる 岩間の氷 ひま絶えにけり
霞まずば なにをか春と 思はまし まだ雪消えぬ み吉野の山
藻塩焼く 浦のあたりは たちのかで 煙立ちそふ 春霞かな
春ごとに 野邊の小松を 引く人は いくらの千代を ふべきなるらむ
子の日する 人に霞は さき立ちて 小松が原を たなびきにけり
子の日しに 霞たなびく 野邊に出でて 初うぐひすの 聲を聞きつる
若菜摘む 今日に初子の あひぬれば 松にや人の 心引くらん
今日はただ 思ひもよらで 帰りなむ 雪つむ野辺の 若菜なりけり
春雨の ふる野の若菜 生ひぬらし 濡れ濡れ摘まん 筐たぬきれ
若菜つむ 野邊の霞ぞ あはれなる 昔を遠く 隔つと思へば
卯杖つき 七草にこそ おいにけれ 年を重ねて 摘める若菜に
若菜おふる 春の野守に 我なりて 憂き世を人に 摘み知らせばや
憂き身にて 聞くも惜しきは 鶯の 霞にむせぶ 曙の山
鶯の こゑぞ霞に もれてくる 人目ともしき 春の山里