つくづくとものを思ふにうちそへて折あはれなる鐘の音かな
新古今集・雑歌
なさけありし昔のみ猶しのばれて長らへまうき世にも経るかな
軒近き花たちばなに袖しめて昔を偲ぶ涙包まん
世の中に住まぬもよしや秋の月濁れる水の湛ふさかりに
世の憂きに引かるる人はあやめ草心の根なき心地こそすれ
世の憂さを昔語りになしはてて花たちばなに思ひ出でばや
空になる心は春の霞にて世にあらじとも思ひ立つかな
新古今集・雑歌
世を厭ふ名をだにもさはとどめおきて數ならぬ身のおもひいでにせむ
柴の庵と聞くはくやしき名なれども世に好もしきすまひなりけり
世の中をそむきはてぬといとひおかん思ひ知るべき人はなくとも
新古今集・恋
月のみや上の空なる形見にて思ひも出でば心通はむ
鈴鹿山憂き世をよそに振り捨てていかになりゆくわが身なるらん
新古今集・雑歌
なにごとにとまる心のありければ更にしもまた世の厭はしき
世の中に心ありあけの人は皆かくて闇には迷はぬものを
山おろすあらしの音ははげしきをいつならひける君がすみかぞ
天下る名を吹上の神ならば雲晴れ退きて光顕はせ
苗代に堰き下されし天の川とむるも神の心なるべし
ほととぎす鳴く鳴くこそは語らはめ死出の山路に君しかからば
新古今集・羇旅
世の中を厭ふまでこそ難からめかりのやどりを惜しむ君かな
世を捨てて谷底に住む人見よと峰の木の間を分る月影