和歌と俳句

西行

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こりもせず憂き世の闇に迷ふかな身を思はぬは心なりけり

法知らぬ人をぞ今日はうしと見る三の車に心かけねば

おのづから清き心にみがかれて玉解き懸くる法を知りぬる

いさぎよき玉を心にみがき出ていはけなき身に悟りをぞ得し

これやさは年積るまで樵りつめし法にあふこの薪なりける

いかにして聞くことのかく安からんあだに思ひて得ける法かは

雨雲を晴るるみ空の月影に恨みなぐさむ姨捨の山

いかにして恨みし袖に宿りけん出でがたく見し有明の月

鷲の山月を入りぬと見る人は暗きに迷ふ心なりけり

悟り得し心の月の顕れて鷲の高嶺に澄むにぞありける

雲晴るる鷲のみ山の月影を心澄みてや君ながむらん

ゆくすゑのためにと説かぬ法ならば何か我が身に頼みあらまし

散り敷きし花のにほひの名残多み立たま憂かりし法の庭かな

何事も空しき法の心にて罪ある身とはつゆも思はじ

鷲の山上暗からぬ峰なればあたりを払ふ有明の月

いかなれば塵に交りてます鏡つかふる人は清まはるらん

罪人のしぬる世もなく燃ゆる火の薪なるらんことぞかなしき

朝夕の子を養ひにすと聞けば苦にすぐれてもかなしかるらん

神楽歌に草取り飼ふはいたけれど猶その駒になることは憂し

よしなしな争ふことを楯にして怒りをのみも結ぶ心は

ありがたき人になりけるかひありて悟り求むる心あらなん

雲の上の楽しみとてもかひぞなきさてしもやがて住みしはてねば