千載集・哀傷歌
もろともにながめながめて秋の月ひとりにならんことぞかなしき
尋ぬとも風のつてにも聞かじかし花と散りにし君がゆくゑを
みがかれし玉のすみかを露深き野辺に移して見るぞかなしき
今宵こそ思い知らるれ浅からぬ君に契りのある身なりけり
道変るみゆきかなしき今宵かな限りの旅と見るにつけても
訪はばやと思ひ寄らでぞ嘆かまし昔ながらの我が身なりせば
重ね着る藤の衣をたよりにて心の色を染めよとぞ思ふ
君がため秋は世に憂きをりなれや去年も今年も物思ひにて
思ひ出づるなさけを人のおなじくはその折問へなうれしからまし
限りなくかなしかりけり鳥部山なきを送りて帰る心は
この度は先々見けん夢よりも覚めずやものはかなしかるらん
今宵君死出の山路の月を見て雲の上をや思ひ出づらん
隠れにし君が御蔭の恋しさに月に向ひて音をや泣くらん
いにしへを恋ふる涙の色に似て袂に散るはもみぢなりけり
新古今集・雑歌
しげき野をいくひと村にわけなして更に昔をしのびかへさむ
もみぢ見て君が袂やしぐるらん昔の秋の色をしたひて
新古今集・哀傷
朽ちもせぬその名ばかりを留めおきて枯野の薄形見にぞ見る
住み捨てしその古里をあらためて昔に帰る心地もやする
新古今集・哀傷
哀れとも心に思ふほどばかりいはれぬべくは問ひこそはせめ
涙をや偲ばん人は流すべきあはれに見ゆる水茎の跡