花園左大臣室
数ふればむかしがたりになりにけり別れはいまの心地すれども
大納言実家
七夕にことしはかさぬ椎柴の袖しもことに露けかりけり
返し 三位右大臣
椎柴の露けき袖は七夕もかさぬにつけてあはれとや見ん
仁和寺後入道法親王覚性
ふるさとにけふ来ざりせばほととぎすたれとむかしを恋ひて鳴かまし
法印澄憲
つねに見し君がみゆきをけふ問へば帰らぬ旅と聞くぞかなしき
右大臣実定
をしへおくその言の葉を見るたびにまた問ふかたのなきぞかなしき
民部卿成範
鳥辺山おもひやるこそかなしけれひとりや苔のしたに朽ちなん
藤原貞憲朝臣
限りありて二重は着ねど藤衣涙ばかりをかさねつるかな
右京大夫季能
みとせまでなれしは夢の心地してけふぞうつつの別れなりける
僧都印性
入りぬるかあかぬ別れのかなしさを思い知れとや山の端の月
左京大夫脩範
のべ見ればむかしの跡やたれならんその世も知らぬ苔のしたかな
僧都範玄
なにごとのふかきおもひに泉川そこの玉藻としづみはてけん
法印成清
思ひきやけふ打ち鳴らす鐘の音につたへし笛の音をそへんとは
静縁法師
先立たんことを憂しとぞ思ひしにおくれてもまたかなしかりけり
藤原親盛
待つらんと思はばいかにいそがまし跡を見にだにまどふ心を
覚蓮法師
山の端にたなびく雲やゆくへなくなりしけぶりの形見なるらん
法眼長真
年をへてむかしをしのぶ心のみ憂きにつけても深草の里
顕昭法師
たらちめやとまりて我ををしまましかｈるにかはる命なりせば
円位法師
もろともにながめながめて秋の月ひとりにならんことぞかなしき
寂然法師
乱れずとをはり聞くこそうれしけれさても別れはなぐさまねども
返し 円位法師
この世にてまた逢ふまじきかなしさにすすめし人ぞ心乱れし