さらぬだに世のはかなさを思ふ身にぬえ鳴きわたるあけぼのの空
鳥部野をこころの内に分けゆけばいぶきの露に袖ぞそぼつる
いつの世に長き眠りの夢覚めておどろくことのあらんとすらん
世の中を夢と見る見るはかなくも猶おどろかぬわが心かな
なき人もあるを思ふも世の中は眠りのうちの夢とこそ見れ
来し方の見し世の夢に変らねば今もうつつの心地やはする
こととなく今日暮れぬめり明日もまた変らずこそは隙過ぐる影
越えぬらばまたもこの世に帰り来ぬ死出の山こそかなしかりけれ
はかなしやあだに命の露消えて野辺に我が身や送りおくらん
露の玉は消ゆればまたも置くものを頼みもなきは我が身なりけり
あればとて頼まれぬかな明日はまた昨日と今日をいはるべければ
秋の色は枯野ながらもあるものを世のはかなさや浅茅生の露
新古今集・雑歌
年月をいかでわが身に送りけむ昨日の人も今日はなき世に
捨てやらで命ををふる人は皆千々の金を持て帰るなり
撞きはてしその入相のほどなさをこの暁に思ひ知りぬる
なき人を霞める空にまがふるは道を隔つる心なるべし
散ると見ればまた咲く花のにほひにも遅れ先立つためしありけり
月を見ていづれの年の秋までかこの世にわれが契りあるらん
いかでわれ今宵の月を身に添へて死出の山路の人を照らさん
その折のよもぎがもとの枕にもかくこそ虫の音にはむつれめ
鳥部野や鷲の高嶺の末ならんけぶりを分て出づる月影
はかなくて過ぎにし方を思ふにも今もさこそは朝顔の露