和歌と俳句

西行

さみだれに干すひまなくて藻塩草けぶりもたてぬ浦の海士人

水無瀬河をちのかよひぢ水みちて船わたりする五月雨の頃

ひろせ河わたりの沖のみをつくしみかさそふらし五月雨のころ

はやせ川綱手のきしを沖に見てのぼりわづらふさみだれの頃

水分くる難波ほり江のなかりせばいかにかせまし五月雨のころ

船据ゑし湊の蘆間棹立てて心ゆくらんさみだれの頃

水底に敷かれにけりなさみだれて美豆の眞菰を刈りに来たれば

五月雨のをやむ晴間のなからめや水の嵩ほせ真菰かり舟

さみだれに佐野の舟橋うきぬればのりてぞ人はさしわたるらむ

五月雨の晴れぬ日數のふるままに沼の眞菰はみがくれにけり

水なしと聞きてふりにし勝間田の池あらたむる五月雨の頃

さみだれはゆくべき道のあてもなし小笹が原もうきに流れて

五月雨は山田の畔の滝枕数を重ねて落つるなりけり

川わたの淀みにとまる流れ木の浮橋渡すさみだれのころ

思はずにあなづりにくき小川かな五月の雨に水まさりつつ

風をのみ花なき宿は待ち待ちて泉の末をまた掬ぶかな

水の音にあつさ忘るるまとゐかな梢のせみの聲もまぎれて

杣人の暮にやどかる心地していほりをたたく水鷄なりけり

夏山の夕下風のすずしさにならの木かげのたたまうきかな

かき分けて折れば露こそこぼれけれ淺茅にまじる撫子の花