春夏のおのがきぬぎぬぬぎかへてかさねしそでを猶をしむかな
しかりとてけふやは名のるほととぎすまづ春暮れてうらめしの世や
なにとなく過ぎにし春ぞ慕はるる藤つつじ咲く山のほそみち
いかにせむひのくま川のほととぎすただひとこゑのかげもとまらず
たちばなに風ふきかをり曇る夜をすさびになのるほととぎすかな
ふるさとは庭もまがきも苔むして花たちばなの花ぞちりける
五月闇そらやはかをる年をへて軒のあやめの風のまぎれに
山里の軒端のこずゑ雲こえてあまりなとぢそ五月雨の空
うちも寝ず暮るればいそぐ鵜飼舟しづまぬよもや苦しかるらむ
いかならむしげみがそこにともしして鹿まちわぶるほどの久しさ
ももしきのたまのみぎりのみかは水まがふ蛍もひかりそへけり
八重葎しげるまがきの下露にしをれもはてぬなでしこの花
影きよき池のはちすに風すぎてあはれ涼しき夕まぐれかな
松風のひびきもいろもひとつにてみどりにおつるたにがはの水
夏ふかき野邊をまがきにこめおきて霧まの露の色をまつかな
ふくかぜに軒端の荻はこゑたてつ秋よりほかにとふ人はなし
草の原をざさが末も露ふかしおのがさまざま秋たちぬとて
蟲の音にはかなき露の結ぼほれところもわかぬ秋の夕暮
夜をかさね身にしみまさる嵐かな松のこずゑに秋やすぐらむ
秋ふかき木々のこずゑに宿かりてみやこにかよふ山おろしの風