霰ふるしづがささやよそよさらにひと夜ばかりの夢をやは見る
さびしさは霜こそ雪にまさりけれ峯のこずゑのあけぼのの空
霜ふかき沢辺のあしに鳴く鶴の声もうらむるあけぐれの空
うらやまし時をわすれぬはつ雪よわが待つことぞ月日ふれども
いかにせむ雪さへ今朝はふりにけり笹分けし野の秋の通ひ路
山深きまきの葉しのぐ雪を見てしばしはすぎむ人とはずとも
浦風やとはに波こす濱松のねにあらはれて鳴く千鳥かな
ふる袖の山あゐの色も年つみて身もしをれぬる心地こそすれ
身につもる年をば雪のいろに見て數そふ暮れぞものは悲しき
春秋のあかぬ名残をとりそへてさながら惜しき年のくれかな
あさましやむなしき空にゆふしめのかけてもいかが人は恨みむ
たぐふべき室の八島をそれどだに知らせぬ空の八重霞かな
さばかりに心のほどを見せそめしたよりもつらき歎きをぞする
忘られぬ人をいづこと尋ねても馴れしかごとのある世なりせば
憂くつらき人をも身をもよし知らじ唯時のまのあふこともがな
いかにせむ逢ふ夜をまさる歎きにてまたそれならぬ慰めはなし
今ぞしるあかぬわかれの涙川身をなげはつる恋のふちとも
しきたへの枕ながるる床の上に堰きとめがたく人ぞ恋しき
新古今集・恋
帰るさのものとや人の眺むらむ待つ夜ながらの有明の月
契らずよこころに秋はたつた川わたるもみぢの中たえむとは