むれてゐし同じなぎさの友鶴に我が身一つのなど遅るらむ
こす浪の残りを拾ふ濱の石の十とて後も三年過ぐしつ
おしなべて及ばぬ枝の花ならばよそにみかさの山も憂からじ
かげ清き雲井の月を眺めつつさても経ぬべきこの世ばかりを
これもまた思ふにたがふ心かな捨てずば憂ひを歎くべきかな
頼むかな春日の山の峯つづきかげものどけき松のむらだち
跡絶えてそなたとたのむ道もなし南のきしのしるべならでは
しかばかりかたき御法の末にあひてあはれこの世とまづ思ふかな
花の春もみぢの秋とあくがれて心のはてや世にはとまらむ
世の中をおもひのきばの忍ぶ草いく世の宿とあれかはてなむ
鷺のゐる池のみぎはに松ふりて都のほかの心地こそすれ
行きかはる時につけてはおのづからあはれを見する山のかげかな
瀧のおと峯のあらしの一つにてうちあらはなる柴の垣かな
里びたる犬のこゑにぞ聞こえける竹よりおくの人のいへるは
菊枯れて飛びかふ蝶の見えぬかな咲き散る花や命なるらむ
さかのぼる波のいくへにしをれけむ天の河原の秋のはつかぜ
黒髪のまじりし雪の色ながら心の色は変はりやはせし
草枯れの野原の駒もうらぶれて知らぬさかひに長月のそら
つてにきく契りもかなし相ひ思ふこずゑのをしの夜な夜なの聲
いかばかり深き心のそこを見ていくたの川に身のしづみけむ