和歌と俳句

三笠山

万葉集巻二
御笠山野辺行く道はこきだくも茂り荒れたるか久にあらなくに

万葉集巻二
三笠山野辺ゆ行く道こきだくも荒れにけるかも久にあらなくに

万葉集巻三 赤人
高座の御笠の山に鳴く鳥の止めば継がるる恋もするかも

万葉集巻三 石上乙麻呂
雨降らば着むと思へる笠の山人に着なせそ濡れは漬つとも

安倍虫麻呂
雨籠る御笠の山を高みかもの出で来ぬ夜はくたちつつ

藤原八束
待ちかねて我がするは妹が着る御笠の山に隠りてありけり

万葉集・巻七
大君の御笠の山の帯にせる細谷川の音のさやけさ

大伴稲公
しぐれの雨間なくし降れば御笠山木末あまねく色づきにけり

家持
大君の御笠の山の黄葉は今日のしぐれに散りか過ぎなむ


古今集・羇旅歌小倉百人一首 阿倍仲麿
あまの原ふりさけみれば 春日なるみかさの山にいでし月かも

後撰集・雑歌 兼輔
ふるさとのみかさの山はとほけれど声は昔のうとからぬかな

拾遺集・賀 仲算法師
声たかくみかさの山ぞよばふなるあめのしたこそたのしかるらし

拾遺集・雑 貫之
名のみして山は三笠もなかりけりあさ日ゆふ日のさすをいふかも

好忠
春雨のふるのみ山の花見にと三笠の山をさしてこそゆけ

好忠
三笠山さしても見えず夏なればいづくともなく青みわたれり

公任
みかさ山春日の原の朝霧にかへりたつらんけさをこそ待て

和泉式部
三笠山さしはなれぬとききしかど雨もよにとは思ひしものを

千載集・神祇 上東門院
三笠山さして来にけりいそのかみ古き御幸の跡を尋ねて

後拾遺集・神祇 藤原範永朝臣
けふ祭る三笠の山の神ませばあめのしたには君ぞさかえむ

金葉集・秋 平師季
三笠山ひかりをさして出でしより曇らで明けぬ秋の夜の月

金葉集・賀 周防内侍
いかばかり神もあはれと三笠山二葉の松の千代のけしきを

金葉集・賀 大蔵卿匡房
君が代はかぎりもあらじ三笠山みねに朝日のささむかぎりは

金葉集・雑 藤原実光朝臣
三笠山神のしるしのいちしろくしかありけりと聞くぞ嬉しき

詞花集・雑 よみ人しらず
世の中をおもひないりそ三笠山さしいづる月のすまむかぎりは

新勅撰集・賀 周防内侍
つねよりも みかさのやまの つきかげの ひかりさしそふ あめのしたかな

顕季
三笠山 さしいづる月の 隈なくも 光のどけき よにもあるかな

顕季
三笠山 こたかき松の ながれとぞ 君をば頼む 千代のためしに

顕季
三笠山 松のなたての 身なれども 千代のためしに ひかれぬるかな

顕季
三笠山 さしもはなれぬ 君にけふ 祈りし杖を たてまつるかな

顕季
祈りつる 杖のたよりに 三笠山 千歳の坂も さし越えぬべし

俊頼
三笠山 つもれる雪を かきわけて さしいづる月の 光をぞ見る

仲実
天の下 絶えずぞ君は さかゆべき 三笠の山の 神をまつれば

京極関白家肥後
けふまつる しるしにとてや そのかみは みかさとともに あまくだりけむ

顕輔
三笠山 もりくる月の 清ければ 神の心も すみやしぬらん

千載集・神祇 清輔
あめのした のどけかれとや 榊葉を 三笠の山に さしはじめけん

清輔
三笠山 たち離れぬる 雨雲の かへしの風を 待つ空ぞなき

俊恵
三笠山 こたかき藤の 裏葉には わきて春日も まづや射すらむ

俊恵
知らばやな いくよろづよか 三笠山 君とありあけの 月はすむべき

俊恵
曇りなき 影をかはして よろづよに 君ぞ三笠の 山の端の月

俊成
ちとせとも中々ささじ三笠山松吹く風にこゑきこゆなり

西行
ふりさけし人の心ぞ知られける今宵三笠の山をながめて

西行
光さす三笠の山の朝日こそげに万世のためしなりけれ

西行
三笠山春を音にて知らせけり氷をたたくうぐひすの滝

西行
三笠山月さしのぼる影さえて鹿鳴きそむる春日野の原

寂蓮
三笠山 ふみ見し日より 待ちしかど けさの雪さへ まだあともなし

寂蓮
君ならで あとをばつけじ 三笠山 はやゆきかかれ 椎がこずゑに

定家
みかさ山いかに尋ねむ白雪のふりにしあとは絶え果てにけり

定家
なかなかにさしてもいはじ三笠山思ふこころは神も知るらむ

定家
おしなべて及ばぬ枝の花ならばよそにみかさの山も憂からじ

定家
みかさ山さしけるつかひけふくればすぎまに見ゆる袖の色々

新古今集・神祇 入道前関白太政大臣兼実
あめの下みかさの山の蔭ならで頼む方なき身とは知らずや

定家
思ひやる君が八千代を三笠山こころのすゑのしるべたがふな

定家
三笠山くもゐをいづるかげそへて今日引き分くる望月の駒

俊成
あらざらむのちも心やなほ澄まむ三笠の山の秋の夜の月

俊成
天が下のどけかるべき君が代は三笠の山のよろづよのこゑ

良経
うきよにも露かかるべき我が身かは三笠の森のかげにかくれて

良経
三笠山むかしの月を思ひ出でてふりさけみれば峰の白雪

良経
いく春の 今日のまつりを 三笠山 みねのあさひの 末もはるかに

良経
光そふ くもゐの月を 三笠山 千代のはじめは ことしのみかは

良経
三笠山 わがよをまつの かげにゐて よそにすぐさむ 五月雨のころ

定家
夏の日の さすともしらぬ 三笠山 松のみかげぞ ますかげもなき

定家
いつしかといづるあさ日をみかさ山けふより春の峯のまつ風

定家
みかさ山麓ばかりをたづねてもあらましおもふ道の遐けさ

慈円
はるばると 君がちとせを 三笠山 さしてのどけき 天の下かな

定家
春しらぬたぐひをしれば三笠山このごろふかき雪のうもれ木

雅経
ながめわび 秋もくれぬと ゆふづくひ さすやみかさの 山の端の空

定家
みかさ山松の木のまを出づる日のさして千歳の色は見ゆらむ

定家
祈りおきしわがふるさとの三笠山きみのしるべを猶思ふかな

新勅撰集・賀 藤原行家朝臣
あめのした ひさしきみよの しるしには みかさのやまの さかきをぞさす

新勅撰集・雑歌 源家長朝臣
いづこにも ふりさけいまや みかさやま もろこしかけて いづる月かげ

続後撰集・秋 源家長朝臣
初時雨 ふりさけみれば あかねさす 三笠の山は 紅葉しにけり


子規
後夜の鐘三笠の山に月出でて南大門前雄鹿群れて行く

晶子
大和なる若草山の山の精来てうたたねのわれに衣かく

三笠山かなかな啼いてなつかしき 石鼎

三笠山見る面上に春の塵 禅寺洞

利玄
二三里の冬田越しに見ゆ枯芝に夕陽のあたるわかくさ山が

白秋
三笠山さ青の尾上に立つ鹿のかぼそき姿天にして見つ

白秋
三笠山冬来にけらし高々と木群が梢をい行く白雲

春雨の雲より鹿や三笠山 爽雨

こめて鹿おきふしの三笠かな 石鼎

もつれ見ゆ三笠山路小春空 爽雨