和歌と俳句

藤原顕季

十一

三笠山 さしいづる月の 隈なくも 光のどけき よにもあるかな

あしひきの かたやま岸に 家居して 峰のさくらの 花待つわれは

ながむれば をののえさへぞ 朽ちぬべき 花こそ千代の ためしなりけれ

君のみぞ たづねて見ける さくら花 をらまほしくも 思ほゆるかな

春ごとに 来て見よかしな さくら花 花さかりなる やどといはせむ

主なくて 荒れのみまさる 山里に 盛りと見ゆる 花さくらかな

すめらきの 流れもたえず 河竹の 緑の色も 色づくまでに

きさらぎの そはざらませば ほととぎす これは卯月と さとなれなまし

日数にて 程ぞ知りくる ほととぎす 春くば春と いかがききけむ

岸ちかく にほふ桜の 花みれば しづえや岸の かざしなるらむ

三笠山 こたかき松の ながれとぞ 君をば頼む 千代のためしに

三笠山 松のなたての 身なれども 千代のためしに ひかれぬるかな

三笠山 さしもはなれぬ 君にけふ 祈りし杖を たてまつるかな

祈りつる 杖のたよりに 三笠山 千歳の坂も さし越えぬべし

とにかくに 心いとなき 子の日かな まづや若菜を 摘みにゆかまし

知らずやは 子の日の松に ひきつれて 千歳つむべき 若菜なりとは

散りつもる 色も見るべき もみぢ葉を なほかき乱る やまおろしの風

たづね来て 誰をらざらむ をみなへし きりの籬に たち隠るとも

色も香も むつまじきかな 菊の花 千歳の秋の かざしと思へば

薄く濃き 紅葉の色の 見ゆるまで 隈なく照らす よはの月かな