和歌と俳句

藤原顕季

十一

こころあらば 今宵の月を からくにの 人もながめて あらざらめやは

舟出して 須磨の浦わに 夜もすがら 月のひかりの さすをこそ待て

千歳まで 住むべきやどの ためしにと いはねの小松 けふぞ植ゑつる

よとともに 野辺にこころや あくがれむ もとあらのの 花し散らずば

くれなゐに 深くぞ見ゆる ふすまぢの ひきての山の 峰のもみぢ葉

岩代の 野中にたてる むすび松 いつとくべしと 見えぬ君かな

けふことに たづねてひける あやめ草 ねながき君が 齢ともがな

あやめ草 たまのうてなに ひきかけて ねながきためし 君ぞ見るべき

なほざりの 言の葉をだに きかじとや あふぎの風の たよりならずば

なほざりの 風のたよりと 思ふなよ このかみがみも かけて誓はむ

わぎもこに いかで知らせむ そなれ木の 枝にもいはで 年の経ぬれば

よろづ代の 松のしげれる やどなれや 千歳のみとは 思はざらなむ

通ひ来し 柴の門内 見えぬまで 卯の花咲ける み山辺の里

そり高き きの関守が たつた弓 こころ弱くも 張られぬるかな

今よりは おしてをいはむ たつた弓 かくおもはすに 張られぬるには

暮れぬとて かつ散る山の もみぢ葉に あらし吹くよと 見てやかへらむ

知るらめや 音にのみきく 葛城の 山のみねとも 恋ひしきものを

いかばかり 隈なき夜半の 月なれや やへさく菊の 数みゆるまで

をぐらやま みねのあらしの ふくままに たにのかけはし もみぢしにけり

金葉集・秋
小倉山 みねの嵐の 吹くからに 谷のかけはし 紅葉しにけり

こまにおく うつしこころも なきまでに 恋ひわたるとは 人知るらめや