和歌と俳句

藤原顕季

十一 十二

いつしかと けふたちきつる から衣 ひとへに夏と 見ゆるなりけり

てたまゆら しづはた布を 織りあげて さらしえたりと 見ゆる卯の花

昔より 今日のみあれに あふひ草 かけてぞ頼む 神の契を

ほととぎす 夏の夜さへぞ うらめしき ただ一声に 明けぬと思へば

よとともに かよふ淀野の あやめ草 けふ誰がやどの つまとなるらむ

わきもこが すそわのたゐに ひきつれて 田子の手間なく とる早苗かな

さつきやみ はやまの峰に 灯す火は 雲の絶え間の 星かとぞ見る

ひさかたの あままも見えぬ 五月雨に みくまが菅を 刈り干しかねつ

わがやどの 花たちばなや 匂ふらむ 山ほととぎす 過ぎがてに啼く

おほゐ川 瀬々にひまなき 篝火と 見ゆるはすだく 螢なりけり

わぎもこに いかで知らせむ 蚊遣火の したもえするは くるしかりけり

つとめては まづぞ眺むる はちす葉を つひに我が身の やどりと思へば

夏の日も 涼しかりけり まつがさき これや氷室の わたりなるらむ

むすぶ手に あふぎの風も 忘られて おぼろの清水 涼しかりけり

水無月の かはそひ柳 うちなびき 夏越しの払へ せぬ人ぞ無き

朝まだき 袂に風の 涼しきは はとふく秋に なりやしぬらむ

彦星の 稀にわたれる 天の川 いはこす波の 立ちな返りそ

萩が花 しがらむ鹿ぞ うらめしき 露もちらさで 見るべきものを

秋霧に 隠れの小野の をみなへし わが袂には 匂へとぞ思ふ

風吹けば はなのの薄 穂に出でて 露うち払ふ 袖かとぞ見る