和歌と俳句

藤原顕季

十一

思ひあまり 落つる涙を しのぶれど おさふる袖の 色にいでぬる

岩代の 野中にたてる 結び松 とくべくもなき 君がこころか

波かくる きしのひたひの めなれきの めなれて妹と ぬるよしもがな

世とともに 野辺にて年や 過ぐさまし ときはに咲ける 桜なりせばは

たち別れ 遥かにいきの まつなれば 恋ひしかるべき 千代のかげかな

波路わけ 遥かにいきの まつのみも こころづくしに 恋ひしかるべし

吹き散らす 風なかりせば さくら花 匂ふ日数の 程は見てまし

いづことも わかぬ桜の 花なれば たづねいたらぬ 隈のなきかな

双葉より ゆきすゑまでに 栄えつつ これも八重咲く 白菊の花

よろづ代の かざしと思へば 年ごとに 訪へとぞ思ふ 白菊の花

もろともに 千代へむ程を 人知れず 暮れ行く空を 待つにぞありける

千歳へむ 程はまことに 知りぬべし 暮れ行く空を 待つとしきけば

さくら花 はなこころにも こころみむ この春風は 吹かずもあらなむ

ひたすらに 今も昔も 忘られて 心のかかる 藤の花かな

知るらめや 音にのみきく 葛城の 山の峯とも 恋ひわたるかな

藤の花 見ぬまで人の 心にも きくにつけてぞ まづかかりける

藤の花 心にかかる ものならば たづねてまつと などか見ざらむ

春風に あらぬ身なれど さくら花 たづぬる人に いとはれにけり

きみが身は 花ふくべしと 見るものを 風ならずとも 思ひけるかな

あしひきの 山かへりなる はしたかの さも見えがたき 恋もするかな