和歌と俳句

藤原顕季

十一

詞花集・恋
とどこほる ことはなけれど 住吉の まつ心にや ひさしかるらむ

おほゐ川 ゐせきの音の なかりせば 紅葉を敷ける 渡りとや見む

おぼつかな みやこの桜 匂ふにも 浦風はやき 渡りいかにぞ

みやこにも 花の匂は かはらねど いひあはせつつ 見る人ぞなき

うづらなく あたの大野の 真葛原 いくよの露に 結ぼほるらむ

見れど飽かぬ とほさと小野の 萩が花 袖にうつれる 香さへなしかし

風はやみ なびく稲葉の 葉の上に いかで置くらむ 秋の夜の

霧はれぬ 小野の萩原 咲きにけり ゆきかふ人の 袖にほふまで

さくら花 匂ふさかりの やどなれば なほをりてこそ 見まく欲しけれ

さくら花 こすのまとほり 散るからに ちりさへけふは 払はでそ見る

白波の 立つかとぞ見る 池水に しづえ生ひでて 咲けるさくらは

ことづてむ 人と待つらむ 春霞 たなびく空に 帰る雁がね

散りかかる ほそたに川に 山桜 たづぬる人の しるべなりけり

もろともに ふちはあけねと したはるる 心は君に 遅れざりけり

心をば おなじ道には たぐふとも なほ住吉の 岸もせしかし

須磨の浦の うらみやせまし 高砂の 松に音せず 沖つ白波

松が根に 尾花かりしき 夜もすがら かたしく袖に 雪は降りつつ

岩代の 野中の松に あらねども 恋も年経る ものにぞありける

から衣 たえずきてみよ 今はとて 法の道には 入りにけれども

今はとて そむく身なれど から衣 きてみるときぞ 君はうれしき