秋の田のほのかに露の色わきてまだき悲しき夕月夜かな
いまはとて鴫も立つなり秋の夜の思ひの底に露は残りて
まくずはふいく田のをのの秋風にやがて色づくそでの上かな
しのばれぬ枕の下の涙かな尾上の鹿のこゑ聞きしより
しののめの別れのつゆを契りおきてかたみとどめぬ朝がほの花
初雁のこゑ聞き初むるこのごろの空ならはする朝霧の色
こよひたれ野邊の白露まづ分けて下葉に月のかげたぐふらむ
みやまぢや峯にもをにも霧こめて待つ人もなし問ふ人もなし
三笠山くもゐをいづるかげそへて今日引き分くる望月の駒
秋の月ちよを一夜にながむともさてもや明くる空を惜しまむ
夜をかさねはたおる虫の急ぐかな草のたもとの露や冴ゆらむ
別れなむゆくへやいかにきりぎりす秋はねざめの友と頼みて
稲妻の光もいまは弱りけり袂のかぜのこゑはかはらで
うちそそぐ秋のむらさめ冷やかにて風にさきだつ下のうきぐも
花をおもふ心もつきぬ白菊のまだしもおかぬ色を見しより
年をへてよしなき秋の暮れと見て紅葉の色のうらめしきかな
あらためてさらにや惜しむ今日ごとの空になれたる秋のわかれを