春くればいとどひかりをそふるかな雲井の庭も星のやどりも
わがやどにけふの子の日の松植ゑて風まちつけむ末のまつかげ
さてもなほ尋ねてとはむ霞立つみやこのたつみ山のをちかた
とひ来かしひとよふたよの隔てかは鶯きゐる宿の呉竹
いくとせをつめども更にかはらぬは御垣が原の若菜なりけり
雪消えぬ木の間の日かげうすけれどなかなか花と先づ見ゆるかな
吹きまよふ梅のにほひに袖しめて折られぬ水も今日はわかれず
こきまずる錦おれとや青柳のはなだのいとをまづは染むらむ
さもあらぬ草葉も春はみなれけり早蕨あさる山のたよりに
うつりあへぬ時雨にだにも袖ぬらすみ山の里の今日は春雨
櫻ばなこころに散らぬ色ながらいくたび春をうらみ来ぬらむ
あれにける澤邊の駒のけしきかな春の浅茅の芽ぐむふるさと
かきつらねこし玉づさの帰る雁わがものからに誰しのぶらむ
これまでもこころこころは別れけり苗代水もおのがひきひき
頼めおきし人まつかぜの小夜すみて思ひに通ふ呼子鳥かな
桃の花ながるる色をしるべとて浪にしたがふ春のさかづき
頼むかな咲ける藤なみ春を経てみなみの岸のひかげてらさば
思ふどち春のかたみにすみれ摘む野原のまとゐ雨ぞそぼふる
思ふこと誰に残して眺めおかむ心にあまる春のあけぼの