神無月おなじ木の葉のちる音もけふしもなごりなき心地する
時のまにしぐるる空のくもすぎてまたたが里に袖ぬらすらむ
よをへては野邊の草葉におく霜の消ゆれば色の枯れ増ゆるかな
あらしだにかごとがましきみ山邊に霰ふるなり嶺の椎柴
ふりそめて下葉おもりし松が枝をこずゑもたへず積るしら雪
しをれあしの穂末の色にあき過ぎて雪ぞとどまる遠近のみね
友したふ千鳥鳴くなりひれふりし松浦のやまのあとのしほ風
つたひ来し筧の清水つららゐて袖にさえたるふゆのよのつき
下のおもひ上毛のこほり砕くらしうき寝の鴨の夜半に鳴く声
いかがする枕も床もこほりにて月もり明す瀬々の網代木
あしたづの声も雲井にきこゆなり玉のうてなは霜深くして
深き夜に少女のすがた風とぢて雲井にみてるよろづよのこゑ
散る雪にみことはすみて少女子が袖のいろますももしきの庭
きぎす立つゆくてに人のしをるかな狩場のをのの柴の立枝を
幾千代とかぎりも知らぬ雲の上にはるかにすめる朝くらの声
炭竈のけぶりのしたにつむものは寒きをねがふ歎きなりけり
年くれてほとけの御名を聞くときは積れる罪も残りあらじを
うちのほふふせごの下の埋火に春のこころやまづかよふらむ
門ごとに千世の春とやいはふらむ松きるしづの己がさまざま
春秋やことぞともなきすさびにてさもいたづらに積る年かな