ともしするはやましげやま露ふかし乱れやしぬるしのぶもぢずり
山里は蝉のもろごゑあきかけてそともの桐のしたば落つなり
ながめやる麓のいほの蚊やり火のけぶりも涼しおろす山かぜ
うつり香の身にしむばかり契るとて扇の風のゆくへ尋ねば
あだに置く露さへ玉とみがかれて植ゑしかひある常夏のはな
あぢさゑの萎れてのちに咲く花のただ一えだにあきの風まで
月冴ゆる池のはちすにたまこえてこの世ながらの光をぞさす
夏ながら秋風立ちぬ氷室山そこには冬を残すとおもへば
待たれずよ秋のはつかぜいくかともむすぶ泉にみなれそなれて
まだきより麻のすゑばに秋かけてたもと涼しき夏はらへかな
秋来ぬと露やこずゑにもらすらむ風よりさきに袖のしをるる
さもあらばあれ七夕つめになり見ばや年に一夜も秋の初かぜ
色にいでむこころも知らず秋萩の露に露おく宮城野の原
くちなしのいはでものおもふ秋の夜は女郎花にや色をかこたむ
皆人のこころにしのぶ秋の野を穂に出でてなびくはな薄かな
かるかやのしげみ分け来し故郷はあはでもいなむ心みえなば
吹きまよふ荻の上風むすぼほれ秋にとぢつる暮れの空かな
ぬぎおきし形見も知らず藤ばかまあらしの風の色にまかせて
秋風に堪へぬ草葉はうらがれてうづら鳴くなり小野の篠原
木の葉吹く風の心になびき来て枕にかはる蜩のこゑ