きぎす鳴くかた野のましば宿かりて霞に馴るる春の夕暮
住みわびて上がる雲雀のしるきかなまだかげもなき春の若草
おもだかや下葉にまじるかきつばた花踏み分けてあさる白鷺
こよひ寝てしばしもなれむときは山いは躑躅さく峯のかよひぢ
いくたびかわが君が世にあらむためひかげのどけき玉椿かな
佐保姫の心の色に見ゆるかな花も霞も春の山里
あしびきの山梨の花散り過ぎて身を隠すべき道や絶えぬる
年を経て馴れえむみやのつばくらめうらやみたえて後も幾春
みくりはふ汀のまこもうちそよぎかはづ鳴くなり雨のくれ方
鳥は雲花はしたがふ色つきて風さへいぬる春のくれがた
なつごろもたつは霞のせきなれや春の色をもへだてつるかな
山里はうの花がきね雪をれてすぎふくいほぞあをばなりける
雲の上の千代のみかげにあふひ草神の恵みをかけて待つかな
清水せくもりの木かげに日は暮れぬ山郭公この夜すぐすな
けふといへば蓬の若葉かりそへて宮も藁家もあやめふくなり
早苗とる田子のをがさの騒ぐかなうち散る雨やふり増るらむ
あくがれぬ花たちばなのにほひゆゑ月にもあらぬうたた寝の空
雲せきてみかさこえ行く五月雨にながめは絶えぬ人も通はず
うたがひし心のあきの風たたば蛍とびかふ空に告げこせ
あづまやのさせる戸ざしも夏の夜は明くるを叩く水鶏なりけり