和歌と俳句

吉岡禅寺洞

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穀象虫唐箕のさきの日に這へり

茄子もぐ手また夕闇に現れし

南風や植田濁りにとぶ雀

逃げし方に森ありくろぐろと

麦秋の人々の中に日落つる

山に日の落ちて草刈り泳ぐかな

草萎えてやままゆ蝶のあらはれぬ

羊蹄に月あがりたる旱かな

棟の影地に尖りある干飯かな

凌霽や日々孑孑のすくはるる

藁を得し瓜の巻手の静かなる

広き葉のかさなり映るかな

虫干の衣の香にゐて客主

毛虫やく人撮影の外にあり

来るや森の祭の篝火に

菖蒲葺くや雀の古巣ありながら

ひたすらに精霊舟のすすみけり

上の香に咲き倒れ居り唐菖蒲

裸身にうつろふ雲や唐菖蒲

日焼手に笏たつとしや祭禰宜

てぐすむしゐるかと仰ぐ茂りかな

日車に蝉すがり鳴くはたけかな

夕焼けて土の古さや袋蜘

行水のすめばまたとる袋蜘

吹貫をあげゐるうからやからかな

水上は根づけはじまる蛙かな

早乙女や笠をそびらに小買物

ちぬ釣やまくらがりなる頬被

斑猫や遠送り来るし湯女かへす

蛇の尾のをどり消えたる葎かな

蛇の衣額に巻いて僕かな

長虫を追うてあがりぬ泉殿

通ひ路の夕べ水漬きぬ誘蛾燈

水番に見いだされたる昴かな

菖蒲引日の古水を騒がしぬ

アンテナにとまる鳥あり柿若葉

百姓のうりに来りし岩魚かな

方丈の沓かりてもぐかな

蚰蜒に這はれし避暑の枕上

古き家の廂くぐれば繭の山

温風や落ちてちひさき青柑子

蠅叩一日うせてゐたりけり

一冊の江戸絵帖ありの宿

夕風にさやぎいでたる茅の輪かな

衣更へて庭に机にある日かな

黒ばえに山かつの井をのぞきけり

ぬぎ合へる夕べの笠や早苗とり

誘蛾燈とぼしきマッチすりにけり

火の山をつりかくしたる簾かな

泉殿西日となりて下りにけり

毛虫やく火を柿の葉にもてあそぶ

毛虫やく人ゐて園生すたれけり

三伏の夕べの星のともりけり

かたむけて西日の笊の干飯かな

またたきのさびしくかめる干飯かな

遊船のへさきにありぬ西の月

夕凪や垂乳あらはにゆきかへる

ははきぎに夜の秋なる径はあり

をちの灯のさしてゐるなり五月川

杜鵑花折る昆虫とりの一学徒

蓮池に昆虫網をうつし過ぎぐ

藺の畦を昆虫とりのかへし来る

南風のみち昆虫とりもしらぬとて

緑蔭や昆虫とりの葉巻のむ

蛍狩り茨の花のそこらまで

早乙女に蜘蛛の囲流れかかりけり

田植見の夕晴傘をさしにけり

蝶屑のながれゆくなり田植水

の香のそこはかとなくある日かな

つつましくあがるけむりや蚊遣香

干飯かく音ささやかに聞えけり

精霊の麦藁舟のいでにけり

打上藻精霊舟にてらさるる

おくれいづ精霊舟のはなやかに

灯きえて精霊舟の見ゆるあり

精霊舟いづる波音間遠なる

青き枝の落ちてありけり蝉の宮

宿の子の手花火あげて宵浅き

いちはつのぬれてゐるなり紙のごと

昼顔のいきるる花のとびとびに

雑草を踏んで海市もあらざりき

青梅のぬくもつてゐてひろはれぬ

さきつげるとろろあふひの夏惜む

にほやかに昆虫とびゐ夏惜む