年月はきのうばかりの心地して見馴れし友のなきぞ多かる
いかにせんはてなき人は世にもなしとまらぬこまのかげは過ぐめり
苔のしたにうづまぬ名をば残すともはかなき道や敷嶋の歌
かの岸にこのたびわたせ法の舟うまれて死ぬるふるさとの河
みかさ山麓ばかりをたづねてもあらましおもふ道の遐けさ
難波潟いかなるあしかつみおきし世々にその身の跡ならぬ家
なぐさめは秋にかぎらぬ空の月はるよりのちもおもかげの花
さてもうし今年も春をむかへつつながめながねむはての霞よ
いつかさはうき世の夢をさますべき我が思ふ山のみねの嵐に
急がばや思ふによらぬ契りあらば住までもやまん草の庵を
誰もきけなく音に立つるかりの世に行きてはかへる北と南と
つひにまたいかにうき名のとどまらむ心ひとつの世をばはづれど
三代までに星を戴く年ふりて枕におつる秋の初霜
いかにせむみ山の月はしたへどもなほ思ひおく露のふるさと
さまざまに春のなかばぞあはれなる西の山の端かすむ夕陽に
いかでなほまどひし闇をあきらめむこのとふかたを照らす光に