和歌と俳句

藤原定家

韻歌百二十八首

八重葎あきの分け入るかぜの色を我さきにとぞ鹿は啼くなる

今よりと契りしつきを友として幾秋なれぬ山のすまひに

新古今集・羇旅
旅人の袖ふきかへすあきかぜに夕日さびしき山の梯

つま木こり道ふみならす山人もこの夕霧やなほ迷ふらむ

色わかぬ秋のけぶりのさびしきは宿よりをちの宿にたく柴

秋の夜はつむといふ草のかひもなし松さへつらき住吉の涯

山水のたえ行く音を来てとへばつもるあらしの色ぞ埋める

よしさらばともなひはてよ秋の月苔の岩屋に世はそむくとも

影をまたあかずも月のそふるかなおほかた秋のころのあはれに

色に出でて秋のこずゑぞうつり行くむかひのみねのうかぶ坏

昔だになほ古里のあきのつきしらずひかりのいく廻とも

おもふとも今はのこらじ秋の色よ峯吹く風に木の葉くだけぬ

かり人の袖こそうたてしをれぬれ露ふか草のさとの鶉に

衣打つひびきぞ風をしたひくるこずゑはとほき月の隣に

おく霜よ結びはてつる野原かな露のひかりも花のにほひも

萬世とちぎれる月のかげなれば惜までくらすあきの宮人