蜩や椎の實ひろふ日は長き 子規
蜩や一日一日をなきへらす 子規
蜩に一すぢ長き夕日かな 子規
蜩の松は月夜となりにけり 子規
蜩や夕日の里は見えながら 子規
蜩や夕日の坐敷十の影 子規
面白う聞けば蜩夕日かな 碧梧桐
書に倦むや蜩鳴いて飯遅し 子規
蜩や几を圧す椎の影 子規
蜩や兵村にある牛牧場 碧梧桐
蜩や浦人知らぬ崖崩れ 碧梧桐
蜩や人住まはせし荒蕪の地 碧梧桐
蜩や道程を聞く二里三里 碧梧桐
晶子
みづうみの底より生ふる杉むらにひぐらしなきぬ箱根路くれば
牧水
峰あまた横ほり伏せるふもとなる河越えむとし蜩を聞く
茂吉
蜩蝉のまぢかくに鳴くあかつきを衰へはててひとり臥し居り
茂吉
おとろへし胸に真手おき寂しめる我に聞ゆる蜩のこゑ
ひぐらしの鳴く音にはずす轡かな 蛇笏
白秋
かなしきは気まぐれごころ宵のまに朝の風たち蜩の啼く
白秋
曇り日の桐の梢に飛び来り蜩鳴けば人のこひしき
晶子
日ぐらしが濡色の音を立つる時湯ぞ浴びまほし石の湯槽に
耕平
山は暮れて海のおもてに暫らくのうす明りあり遠き蜩
耕平
慌しく蜩鳴けり目のもとに暮れ沈みゆく山の谷あひ
耕平
木下道すでにかげりて蜩の聲あわただし独り歩むに
蜩に黄葉村舎となりにけり 鬼城