和歌と俳句

送り火 魂送り

なつかしや送火にさそふ風の色 来山

おくり火の跡は此世の蚊やり哉 也有

送り火やわかれた人に別れあり 也有

送り火や顔覗あふ川むかひ 太祇

送り火やなきは誠の跡座敷 暁台

魂送り身にそふくさの夕かな 暁台

送り火や今に我等もあの通り 一茶

送火や朦朧として佛だち 子規

送火や灰色に舞ふ秋の風 子規

烏帽子着て送り火たくや白拍子 子規

送り火の煙見上る子どもかな 子規

魂送り背戸より歸り給ひけり 子規

送火の何とはなしに灰たまる 子規

送り火やかくて淋しき草の宿 虚子

送火や母が心に幾佛 虚子

送火をたく隣あり萩の闇 万太郎

送火や草山蔭の家二軒 万太郎

送火や僧もまゐらず草の宿 鬼城

送火や迎火たきし石の上 鬼城

送り火をはたはたとふ妻子かな 蛇笏

送火の手に応ふるや夕嵐 月二郎

一筋に落ち合ふ路や魂送り 月二郎

魂送りすみたる門を入りにけり 悌二郎

蓑笠をまとうて雨の魂送り 月二郎

送り火をすぐに消したる走り波 野風呂

軒竝に焚く送り火や宿とらん 虚子

百聯の提灯ゆくよ魂送り 鷹女

送火や風さへそへる雨の中 万太郎

送火をたきてもどりし膳のまへ 万太郎

月照りて野山があをき魂送り 多佳子

月の砂照りてはてなき魂送り 多佳子

おぼえなき父のみ魂もわが送る 多佳子

送り火が並び浦曲を夜にゑがく 多佳子

門川をやがてぞ去りぬ霊送 素十

送り火や蒸し暑き夜を去りたまふ 水巴

山雲や御霊送りの火をうつす 月二郎

送火の燃え誰ぞや汲むはね釣瓶 汀女

送火の名残の去年に似たるかな 汀女

送り火や砂に突きたる老の膝 蕪城

魂送る舟とやなほも漕ぎ出づる 蕪城

送火をこえてショパンの流れけり 波郷

送り火をして連れもなく妻帰る 石鼎

濁る瀬をあはれ拝みて魂送 秋櫻子

舟着の板いちまいや魂送 秋櫻子

雨の洲に下りて拝めり魂送 秋櫻子