和歌と俳句

水原秋櫻子

乾鮭を切りては粕につつみけり

甘酒の老舗はくらし歳の市

橙の山畑尽きて伊豆の山

磯釣と舞鯛相搏つ枯薊

波荒れてゆらぐ利島や冬苺

エリカ咲き海光冬も麗らなり

木瓜咲けりその色飛びし赤絵かも

うぐひすや熱まだこもる登り窯

蔓はなれ月にうかべり鉄線花

蜘蛛手網蜻蛉うまれてかがよへり

手長鰕失せて樗の花の影

舟倉にあまる舳や藻刈舟

白根咲けりといふよ山彦も

炎立つ四万六千日の大香炉

傘を手に鬼灯市の買上手

朝顔や潮がしら跳ぶ車海老

舟着の板いちまいや魂送

露ながら一瓣すでに酔芙蓉

柄香炉をよこたふ厨子や菊供養

破蓮の葛西の風のひびきそめ

朝霧浄土夕霧浄土葛咲ける

海蟹の市に船寄る秋の風

木曾の雲飛騨へ嶺越す秋の風

飛騨谷へ蔓なだれたり山葡萄

秋晴や苔踏むまじき藁草履

落穂拾ひ去るや夕澄む穂高岳