鮎寂びて簗はうづまく霧の中
菊の香や芭蕉をまつる燭ひとつ
月高く流燈沖に芭蕉祭
夜の塔を風音越ゆる散紅葉
羽子板市三日の栄華つくしけり
羽子板や狐守護する兜にて
羽子板や判官笈に耐へたまひ
浦安や春の遠さの白魚鍋
初場所や髪まだ伸びぬ勝角力
初場所や古顔ならぶ砂かぶり
立雛の面輪匂ひて眉目あり
黄塵や青梅街道野にいでて
黄塵や瀬々の涸れたる名栗川
沖かけて花ぐもりせり河豚供養
散華して南無河豚佛と供養する
放生の生簀舁きいづ河豚供養
林檎咲き荒瀬北指す川ばかり
花と影ひとつに霧の水芭蕉
残雪の深さおどろく橡の花
大雪渓日輪の暈触れにけり
真白にぞ雪渓懸る五月の日
雪渓の雲くづれ落つ黒部谿
山肌の代馬足掻く雪解風
遠雷や発止と入れし張扇
黒つぐみ霧に声澄む月寒