和歌と俳句

水原秋櫻子

鮎寂びて簗はうづまく霧の中

菊の香や芭蕉をまつる燭ひとつ

月高く流燈沖に芭蕉祭

夜の塔を風音越ゆる散紅葉

羽子板市三日の栄華つくしけり

羽子板や狐守護する兜にて

羽子板や判官笈に耐へたまひ

浦安や春の遠さの白魚鍋

初場所や髪まだ伸びぬ勝角力

初場所や古顔ならぶ砂かぶり

立雛の面輪匂ひて眉目あり

黄塵や青梅街道野にいでて

黄塵や瀬々の涸れたる名栗川

沖かけて花ぐもりせり河豚供養

散華して南無河豚佛と供養する

放生の生簀舁きいづ河豚供養

林檎咲き荒瀬北指す川ばかり

花と影ひとつに霧の水芭蕉

残雪の深さおどろく橡の花

大雪渓日輪の暈触れにけり

真白にぞ雪渓懸る五月の日

雪渓の雲くづれ落つ黒部谿

山肌の代馬足掻く雪解風

遠雷や発止と入れし張扇

黒つぐみ霧に声澄む月寒