和歌と俳句

中村汀女

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かへりみて何かたづねて門火かな

送火の燃え誰ぞや汲むはね釣瓶

送火の名残の去年に似たるかな

婆様はいつも物煮て芙蓉咲く

秋草に遊んでくるるよその犬

明るさはすぐ廣窓に秋の山

松手入れしてみちのくの港かな

花よりも白き渡雲月の屋根

家妻は案山子のもとに子を背負ひ

番犬にいたくおどろき茸売

書架すでに暗き背文字も秋の暮

さしのばす手の輝きて蝗取

あちこちに蝗取居り顔を上ぐ

目をとぢて秋の夜汽車はすれちがふ

吹き落ちしものを笞に野分の子

その後のなほ野分めく芙蓉かな

秋水に櫂深きとき舟疾く

蜻蛉釣る子に洗ひ髪母通る

温泉の里の丹のぼんぼりに秋出水

仮橋を先立つ犬や秋の暮

夜寒来て関門の朝あたたかく

秋の水やはらかに手によみがへる

江津神社とは御小さく法師蝉