和歌と俳句

中村汀女

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秋草の道の案内もさびしさに

の声終るまで何を待ちし

秋の声谷深まりて来て人家

まつしぐらに花野は霧にもどりけり

われは一日のふるさと人よ稲雀

一の滝すでにはげしや初紅葉

紫苑咲き杉を挽く香の町の口

去りがての祭の客に飛鳥川

山裏へ行く道見えて秋の暮

尚深く住みなす家ぞ紅葉谷

一夜明け山新しく赤とんぼ

桔梗濃しいささか去年語らせよ

太くぐんぐんとビル引き放ち

稲妻の照らせし胸のまま対す

稲妻が見せし心のあり処かな

湖も秋日もここに完けれ

ゆるぎなく金木犀の香のほとり

鏡台に山の秋雨しぶくほど

撫子も挿し十分に意を得たり

唄ふとて一つ覚えや秋櫻

しばらくは露の桔梗に座をまかす

われよりもすぐに気を変へちちろ鳴く

流星や母そのままの夜にあれば

星とぶや小菜園に茄子太り

流星や片空のみかときめくは