和歌と俳句

中村汀女

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笛そへば祭太鼓の高くなる

みたらしに祭鬼灯洗ひもし

手をとりて秋風にあり昼休

にはかなるミシン踏み出す夜寒かな

歩きもす夜寒の子等の枕上

朝顔や赴任きまりて色多く

新涼やわがなす用のはたとなく

秋風や留守の用意と旅支度

秋風の駅の時計とわが時計

秋扇や美しきまま母となり

新涼の千人針をつかまつる

己が荷によろけてかなし秋の雨

持ちかへてすぐ重き荷や秋の雨

四方より馳せくる畦の曼珠沙華

あち向いてどの子も帰る曼珠沙華

青蜜柑買ひ得し駅を発車かな

台風の我が汽車の音聞いて居る

わが心ひそかに聞ゆ鉦叩

手折る花いつしか多し吾亦紅

茶菓出でて後は静かに法師蝉

雨霽れてすでに久しき菊の露

木の實落つきびしき音にむちうたる

自転車が退けとベルしぬの道

末枯れや大工道具を荷にからげ

秋雨のつのるばかりや夕炊ぎ

風鈴のありかは知らね秋の宿