中村汀女
泣き声のまだ赤ん坊や秋の雨
雨の庭色鳥しばし映りゐし
霧見えて暮るるはやさよ菊畑
横浜にすみなれ夜ごと夜霧かな
とんぼ釣ととんぼと出でし晴れ間かな
秋汐のしぶきにふれしひややかさ
稲妻のゆたかなる夜も寝べきころ
刈込の庭木の梢稲光
人形の窓辺の髪に秋の風
水引を折るにつけても法師蝉
帰り路はわが夕影や法師蝉
二連れの渡り鳥なり交ひ行きし
釘打つて今日はあそぶ子秋風に
砂浜の砂あたたかき粟筵
行き交ひに犬に口笛秋の晴
行秋や聞かむとすれば昼の蟲
秋風に山家の蜘蛛の死んで見せ
雨となる夜来の霧や山桔梗
朝早や誰ぞ秋草をとりもどる
秋雨をさびしと雲や榛名富士
長編の序編の雑誌秋の宿
草の実にすうと汽笛のうすれつつ