ぬぎすてし人の温みや花衣
門とぢて夜涼にはかや山住ひ
みめよくてにくらしき子や天瓜粉
人なつくあはれ身にそふ袷かな
かたよりて田歌にすさむ女房かな
早乙女や神の井をくむ二人づれ
山蟻のわくら葉あるく水底かな
いちごつむ籠や地靄のたちこめて
愛着すうす黴みえし聖書かな
盂蘭盆の出わびて仰ぐ雲や星
送り火をはたはたとふ妻子かな
秋旅や日雨にぬれし檜笠
むら星にうす雲わたる初秋かな
鰯雲簀を透く秋のはじめかな
雲あひの真砂の星や秋の空
われを見る机上の筆や秋の風
ことよせてうたかく秋の扇かな
古ゆがむ秋の団扇をもてあそぶ
障子貼る身をいとひつつ日もすがら
ゆく雲にしばらくひそむ帰燕かな
風さそふ落葉にとぶや石たたき
山風や棚田のやんま見えて消ゆ
よくはれて霜とけわたる垣閧ゥな
帰りつく身をよす軒や雪明り
なでさする豊頬もちて入営子
市人にまじりあるきぬ暦売
一と燃えに焚火煙とぶ棚田かな
冬籠日あたりに臥てただ夫婦
草枯や鯉にうつ餌の一とにぎり
山寺やたかだかつみてお年玉
億兆のこころごころやお年玉
年寄りてたのしみ顔や絵双六
ただ燃ゆる早春の火や山稼ぎ
ゆく春や松柏かすむ山おもて
いきいきと細目かがやく雛かな
夜の雲にひびきて小田の蛙かな
土くれや木の芽林へこけし音
焼けあとや日雨に木瓜の咲きいでし
ちる笹のむら雨かぶる竹の秋
夏雲や山人崖にとりすがる
人うとき温泉宿にあらぶ雷雨かな
夏旅や温泉山出てきく日雷
睡蓮に日影とて見ぬ尼一人
はざくらや翔ける雷蝶眞一文字
山賤や用意かしこき盆燈籠
身一つにかかはる世故の盆會かな
信心の母にしたがふ盆會かな
盆経やかりそめならずよみ習ふ
霊棚やしばらくたちし飯の湯気
形代やたもとかはして浮き沈み
筆硯わが妻や子の夜寒かな
秋虹をしばらく仰ぐ草刈女
山の戸やふる妻かくす秋の蚊帳
うちまぜて遠音かちたる砧かな
山風にゆられゆらるる晩稲かな
無花果や雨餘の泉に落ちず熟る
むら雨に枯葉をふるふささげかな
秋の蚊や吹けば吹かれてまのあたり
せきれいのまひよどむ瀬や山颪
桔梗の咲きすがれたる墓前かな
山寺や齋の冬瓜きざむ音
はつ冬や我が子持ちそむ筆硯
雲ふかく瀞の家居や今朝の冬
冬晴や伐れば高枝のどうと墜つ
冬凪ぎにまゐる一人や山神社
火屑掃くわが靴あとや霜じめり
遅月にふりつもりたる深雪かな
こもり居の妻の内気や金屏風
絵屏風や病後なごりの二三日
障子あけて空の真洞や冬座敷